熱中症の予防は、個人の努力とともに組織としての配慮も必要です。

運動や作業については、責任者を明確にして、監督者を配置するべきです。特に、互いに競争意識が強くて無理をしすぎるときに、休憩を指示したり、個人の体調を観察したりすることが大切です。また、日頃から、体調不良を正直に申告したり、気軽に相談したりできる雰囲気を作っておくことが大切です。

毎年、熱中症が発生しはじめる6月よりも前に、管理者を含めてすべての対象者に熱中症について教育をすることが大切です。このころには、熱中症を予防するためのイベントも開かれるようになりますので、積極的に参加するとよいでしょう。

また、職場でできる救急処置として、日陰を用意して、大い血管がある部位をアイスバッグで冷やしたり、身体に水分を塗布して風を
送ったり、脳への血液循環を確保するために下肢を高くすることを周知しておきましょう。

それから、職場にも、清潔に保管した体温計を用意しておくとよいでしょう。さらに、いざというときに紹介できる医療機関を調べてお
きましょう。実際に、医療機関を受診させる際は、運動や仕事のようすを説明できる者を同行することが勧められます。

また、緊急時に搬送できる医療機関を調べておき、事業場内の連絡体制を整備し、救急処置についても教育や訓練を行っておくことが望まれます。 

熱中症に関する知識と予防策については、雇入れ時教育、作業変更時の教育、職長教育、全国安全迦間などの機会をとらえて、労働者、現場の管理者、監督者を対象に、労働術生教育をすることが望まれま す。教育を通して、熱中症が発生するメカニズムや救急処置についてきちんと理解させておくことは、熱中症の予防に有効と考えられます。特に、人間の熱産生と熱放散の不均衡が熱中症の原因であること、発汗のしくみなどの基本的な事項を職場の管理者に理解していただくことは、無理な作業計画や体調管理をさせないうえでとても大切です。 

職場が著しく暑熱な場合においては、環境条件のわずかな変化が熱中症を発症させる原因になり得ます。また、労働者にはもともと個人差があることに加えて当日の体調がよくない人は、同じ職場にいる同僚が平気でも一人だけ熱中症に陥ることかあります。このような場合に熱中症の発生を予想して未然に防ぐには、健康診断結果に基づく医師の判断や現場での聞き取りなどだけでは不十分です。

そこで、著しく暑熱な職場にいる人や体調がよくない人にっいては、始業前に体温を測定しておき、休憩時間にも測定して、その経過を観察することが勧められます。そして、暑さに慣れていない人では直腸温で38.0度(腋下温で37.5度、暑さに慣れている人でも38.5度を超えるような体温の場合は、暑熱な職場での作業は中止させることが必要です。

体温は、本来は、身体の内臓の温度を測定するのが理想なのですが、通常は不可能ですから、わきの下で測定するのが一般的です。ただし、わきの下の温度は、体表面の温度ですから内臓の温度はそれよりも0.5度程度は高いと考えるべきです。最近、耳の穴から赤外線を入れて鼓膜の温度を測る方法かおり、頭蓋内の温度に近い値を測ることができると期待され、乳幼児では広く利用されています。ただし、大人では、外耳道が途中で曲がっていますので、鼓膜の温度を正確に測るには耳たぶをよく後ろに引っ張り何度か測定して最も高い値を探す工夫をしてみることが有効です。そのほか、日の中の温度を計る方法、排尿直後の尿の温度を測る方法、サーモグラムで撮影する方法などもあります。

なお、身体に接触させる体温計は、個人に専用のものがあれば理想的ですが、他の労働者も使刑する体温計は、消毒用アルコールを清潔な綿などに浸したり、スプレー式の消毒液を利用したりして毎回消毒する必要があります。

労働者の持病に高血圧、心疾患、脳血管疾患、糖尿病、腎炎患、甲状腺疾患、血液疾患等の熱中症を発症しやすいと考えられる疾患が詰められる場合は、暑熱な職場における作業に従事することについて必ず産業医の意見を求めるとともに、必要に応じて上治医の意見も求めて、就業上の十分な配慮を行うことが必要です。

ここで、ある労働者について暑熱な職場における作業に従事することが困難であると判定された場合は、まず、本人が治療や生活改善に励むことによって就業適性が確保されるよう促します。そのうえで、当座は夏場の暑い時期だけはその他の業務に従事させるといったやりくりの仕方を検討します。それでもどうしても適性がないということであれば、配置や作業を思い切って転換したりすることが必要です。その際は、労働者本人、人事担当者、産業医の二者が同席して相談し、産業医が医学的な見地から病状や就業適性について説明したり、配置転換先のようすについて吟味したりするのが理想です。 

健康診断で検査結果に異常所見かおる場合は、職場の上司や人事担当者は、産業医等から本人が暑熱な職場における作業に従事するに当たって講ずるべき措置がないかについて意見を聴取します。

産業医等から措置を塵する事項について意見を聴取する場合には、職場の上司等は作業環境や作業の様子についてなるべく詳しく説明をしたうえで、産業医から具体的な広兄をもらえるように工夫します。 職場の上司や人事担当者は、産業医等からの意見がわかりにくかったり抽象的だったりして具体的な措置を検討しにくい場合は、遠慮せずに、意見を述べた産業医にたずねて、重要な事項を的確に理解するように努めます。

また、可能であれば、事業者は、意見を述べた産業医と話し合う場を設けて、産業医の意見に基づいて事業者としてはどのような措置を講しようとしているのかについて説明をして、改めてその措置に対する医師の意見を求めるようにします。

このように暑熱な職場における就業上の措置が決まったら、それらがきちんと実践されるように職場の上司や現場の監督者に連絡する必要があります。 

労働安全衛生法には、暑熱な職場の労働者を対象に実施しなければならない特殊な健康診断は規定されていません。 しかし、同法に基づく労働安全衛生規則第45条は、事業者は、「多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務」に常時従事する労働者を対象に、配置替え時および6ヵ月ごとに1回、定期に、特定業務従事者の健康診断を実施しなければならないことを
規定しています。

この健康診断で実施が義務づけられている検査項日は、定期健康診断と同しものですが、胸部エックス線検査は1年に1同了よく、採血が必要な検査(肝機能検査、血中脂質検査、貧血検査、血糖検査)や心電図検査は医師が必要でないと認めるときは省略してよいことになっていますので、通常は、業務歴と既往歴の聴取、体格(身長、体重、腹囲)、血圧、視力、聴力(1000Hz、4000Hzの検査でなくてもよい)、尿の検査でよいことになります。 

一般に、健康診断というと、ある疾病を早期に発見するための検査を実施することが期待されます。ただ、その日の体調によって急に発症することがある熱中症については、健康診断了事前に発見することは困難です。また、熱中症になりやすい体質かどうかについて、判別できるような血液検査などによる客観的で簡便な指標も存在しません。

したがって、健康診断の際に医師などが行う問診において、熱中症になりやすい作業環境、作業、健康の状態がないかどうかについて、詳しく調べることが期待されます。 

暑い作業に従事することがあらかしめ分かっている場合、暑さに慣れておくことも考えられます。たとえば、スポーツによって暑さに慣れておけば、早めに汗が出やすくなります。このように、避けるだけが予防ではなく、慣れることも重要で、積極的な予防といえます。 

暑い作業に従事した後の日常生活では、多量の発汗を伴う活動はなるべく避けて、十分な食事、休養、睡眠を取って、その日のうちに体
温を下げておくことが重要です。特に、1日の最低気温が25度以上の熱帯夜の場合は、寝室が蒸し暑くなりますので、翌日は体温上昇や前日と比べて体重減少がないか確認することが勧められます。

また、入浴後、就寝前、起床時に水分を補給することが勧められます。夜中に空調を使用した場合は、室内が乾燥して不感蒸泄(人間の吐く息は水蒸気で飽和しているほか、肌では感しない発汗かおり、それをいいます)が増えますので、水分は多めに補給するように指導します。脱水によって体重が2%以上減少すると運動選手の競技成績が低下することが知られてい圭すので、夏季は、人浴時や起床時に体重 を測定して記録しておいて、慢性的な脱水が生じないように注意します。特に、アルコールは、尿量を増やす作用(利尿作用)がありますので、暑い作業の前日は飲みすぎないよ引こ心がけて、飲酒後には必ず水分を補給することが大切です。 

暑さに関係する体調は、常に変化しますので、作業現場の管理・監督者が、毎日の作業前に下表に掲げた事項を確認するようにします。

作業前の体調確認

  • 前日は十分に睡眠を取ったか?
  • 前日のアルコールの飲みすぎ等で脱水状態になっていないか?
  • 仕事に来る前に食事をしたか?
  • 下痢や発熱はしていないか?

そのためには、職場において、日頃から管理・監督者に体調を正直に申告できる雰囲気を醸成しておくこと、その結果に基づいて現場で作業の調整や休憩の指示をしたり健康管理部門に相談したりできる体制を構築しておくことが重要です。

また、作業前に、仲間でお互いの顔色や様子を観察して、声をかけ合う習慣をつけておくことも大切です。特に、二日酔いと食事抜きの人は、そのまま暑い仕事を初日からやらせるというのは非常に危険なので、この2つの事柄については必ず正直に申告するように促す必要があります。そして、脱水状態が疑われる者や作業前に食事をしていない者は、暑い作業から外して、先に水分補給と食事摂取を促す必要があります。また、万一のために、熱中症の診療ができる救急部門のある医療機関の連絡先を調べておく必要があります。

熱中症対策(保護具) - 熱中症予防対策

化学防護服、前掛け、手袋などの保護具は、水分の透過性や通気性が悪く、汗の蒸発を妨げることから熱中症のリスクを上昇させます。また、防じんマスクなどの呼吸用の労働衛生保護具も、日から肺に至る呼吸器からの水分の蒸発を妨げることから熱中症のリスクを上昇させます。 

一方、熱中症の発生を予防する目的の保護具もあります。

屋外では、日光の照射を防ぐために、日傘や日よけの付いた帽子を使用させます。頚部を遮光する後垂れ付きの麦わら帽子は、農作業を含め屋外作業用に広く利用できます。保護帽(ヘルメット)は、通気孔から外気を取り入れられるものや送風式のものもあります。帽子や順に巻く帯などで、皮膚表面から汗を吸い取って蒸発させる作用のある素材のものもあります。冷媒を使用した保護具として、保冷剤を入れたベスト、冷水を背負って体表面を循環させる形式の保護服、圧縮空気を断熱膨張させて冷気を作って作業服やマスクの中に供給する方式の冷却服などがあります。 

ウェブページ

Powered by Movable Type 5.04